最終更新: 2026年10月27日
クロストレーニングとは、ランナーが走る以外の有酸素運動で持久力を補う練習方法です。自転車、水中ランニング、エリプティカル、ローイングなどを使います。研究では、別の種目でも心肺の力はある程度伸び、6週間ほどなら維持もできます。ただし効果が走る練習を上回った例はありません。速く走る練習は残し、まずは週1回、楽なランを同じ時間・同じきつさで置き換える形から始めます(本サイトの目安)。
この記事の要点
- 別の種目で鍛えた効果は走りにある程度移ります。ただし、走る練習より大きく伸びたという研究はありません
- 置き換えるのは楽なランからです。そろえるのは距離ではなく、時間と主観的なきつさです
- 強さは心拍数ではなく、会話のしやすさと0〜10のきつさで合わせます。種目が変わると同じきつさでも心拍数が変わるためです
クロストレーニングとは何ですか?
一般には、ある種目の成績を上げるために、別の種目も組み合わせて練習を組み立てる考え方です(Tanaka 1994)。本記事では、ランナーが走る以外の有酸素運動で持久力を補う意味に絞ります。筋トレと有酸素運動を両方伸ばす練習はハイブリッドトレーニングで扱っています。
ランナーの主な使い道は次の通りです。
| 使う場面 | 狙い |
|---|---|
| 走る量を増やしたいが脚が追いつかない | 着地の衝撃を増やさずに有酸素の練習量を足す |
| 痛みや強い疲れで走れない | 走れない期間の持久力を保つ |
| 同じ練習に飽きた・気持ちが疲れた | 刺激を変えて練習を続ける |
13件の研究のまとめでは、走った1,000時間あたりのけがは初心者17.8件、走り慣れた人7.7件でした。走る量を一気に増やせない時期に、心肺の練習を別の形で足せる点が利点です。走り始めの進め方はランニング初心者は何から始める?で扱っています。
クロストレーニングで何が伸びますか?
| 研究 | 対象・期間 | 結果 |
|---|---|---|
| Mutton ほか 1993 | 中程度に鍛えたランナー11人、5週間、週4回 | ランだけの組と、ランと自転車を交互にした組で、最大酸素摂取量と5,000mのタイムが同じように伸びた |
| Loy ほか 1993 | 運動習慣のある女子大学生23人、9週間、週4回 | 階段を上るマシンの組は最大酸素摂取量+12%・2,414mのタイム−8%。ランの組は+16%・−11% |
| Foster ほか 1995 | よく鍛えた30人、8週間 | 練習量を増やす分をランで足した組は3.2kmが26.4秒、水泳で足した組は13.2秒速くなった。増やさない組は5.4秒(有意差なし) |
| Eyestone ほか 1993 | 鍛えた32人、6週間 | 水中ランニング・自転車・ランの3組とも2マイル走のタイムは変わらず、組の間に差はなかった。最大酸素摂取量は3組ともわずかに下がった |
| Wilber ほか 1996 | 鍛えた男性ランナー16人、6週間 | 水中ランニングの組もランの組も、最大酸素摂取量とランニングエコノミーが変わらなかった |
まとめると、別の種目でも、走る力はある程度伸びるか、少なくとも保てます。ただし伸び方はランより小さいか、同じ程度です。Foster の試験では、水泳で足した組の短縮はランで足した組の半分でした。
クロストレーニングで伸びにくいものは何ですか?
Tanaka(1994)の総説は、別の種目の効果がその種目そのものの練習を上回ることはないとまとめています。伸びにくいのは次のものです。
- 乳酸がたまり始める走速度: 速いペースを保てる目安になる速さです。Foster の試験で、血中乳酸が4mmol/Lになる走速度が上がったのはランで足した組だけでした
- 走る動きでの心肺の力: 最大酸素摂取量は運動の種類ごとに違います(Millet ほか 2009)。研究によっては、ランほど伸びません(Loy は+12%対+16%)
- 走る負荷への脚の慣れ: 走るときの繰り返しの着地は、自転車や水中ランニングではかかりません。腱は筋肉より適応が遅いと考察した総説もあり(Bohm ほか 2015。主に筋トレの研究)、走る量を戻すときは少しずつ増やします
水泳は効果がほかの種目に移りにくいとされます(Tanaka 1994)。ランへの効果を狙うなら、脚を使う種目を選びます。
どの種目を選べばいいですか?
| 種目 | 脚の使い方 | 研究で確かめられていること |
|---|---|---|
| 水中ランニング | 走る動きに近い。着地しない | 鍛えたランナーで6週間、持久力を保てた |
| 自転車 | 脚で回す。着地しない | ランと交互の練習で、ランだけと同じように伸びた |
| 階段を上るマシン | 脚で押し上げる | ランより少し小さいが、タイムが縮んだ |
| エリプティカル | 足が台から離れない | 同じ心拍数で、脚のきつさを強く感じやすい |
| 水泳 | 主に上半身 | ランへの効果の移りは小さい |
| ローイング・スキーエルゴ | マシンを漕ぐ。着地しない | ランへの効果を比べた試験は、本サイトでは見つけられていない |
水中ランニングは、浮力の補助具をつけてプールの深い所で走る方法です。走る動きに近く、背骨への負担が小さい点が強みです(Reilly ほか 2003)。プールが無ければ自転車で代えられます。この記事で挙げた試験のうち、ランナーを対象にしたものは水中ランニングと自転車が中心です。
強さは心拍数ときつさのどちらで合わせますか?
種目が変わると、同じきつさでも心拍数が変わります。自転車とランでは心拍数が違い(Millet ほか 2009)、水中ランニングでは最大の運動での心拍数が下がります(Reilly ほか 2003)。そこで、主観的なきつさと会話のしやすさで合わせます。
ふだん置き換えるのは楽なランだけです。速いペースの行は、痛みで走れない期間に同じきつさで代えるときの目安です。
| 置き換えるラン | 合わせるきつさ |
|---|---|
| 楽なジョグ | 会話を続けられる。0〜10で5〜6、ボルグスケールで11「楽である」〜13「ややきつい」 |
| 速いペースの練習(走れない期間に限る) | 数語ごとに息継ぎが要る。0〜10で7〜8 |
0〜10と会話の目安は米国疾病予防管理センター(CDC)に基づきます。エリプティカルの研究では、全身のきつさで合わせると心拍数もほぼ同じになりました(Green ほか 2004)。会話を基準にした走るペースの決め方はジョギングのペースの目安にあります。
週の何回を、どう置き換えればいいですか?
研究で決まった回数や割合はありません。下の表は、特異性の総説(Tanaka)と Foster の乳酸の結果から、本サイトが判断した例です。
| 状況 | 置き換え方 |
|---|---|
| 週3回走っていて、量を増やしたい | 4回目を走らずに、楽な別種目で足す |
| 脚の疲れが抜けない週 | 楽なジョグ1回を、同じ時間・同じきつさの別種目にする |
| 痛みがあって走れない | 医師に相談したうえで、走る練習と同じ頻度・時間・きつさを別種目で行う |
どの場合も、レースペースやインターバルなど速く走る練習はランで残します。持久系の一流選手は練習の約80%が低い強さという報告があり(Seiler 2010)、置き換えやすいのはこの楽な部分です。1回の時間と週の合計の考え方は有酸素運動は何分やればいい?で扱っています。
ハイロックスではどこで効きますか?
ハイロックス(HYROX)は、1kmのランと種目1つを交互に8回繰り返すフィットネスレースです。8種目のうち、スキーエルゴ1,000mとローイング1,000mはマシンの上で行う持久系の種目です。着地の衝撃がない持久系の種目で、定義の上ではクロストレーニングに使えます。ただし、ランへの効果を比べた試験は見つけられていません。
第三者がリザルトを集計したデータでは、この2種目は選手間の差が小さい種目です。脚に疲れがある日の有酸素練習を兼ねて、動きに慣れておく使い方が合います。動作とペースはSkiErg(スキーエルゴ)攻略とRowing(ローイング)攻略にまとめています。
一方、ランは合計8kmで、レース全体のおおむね半分を占めます。マシンを漕いでもランの代わりにはなりません。8本のランの配分はハイロックスのラン強化とペース配分戦略、週の組み方はハイロックスのトレーニング完全ガイドで扱っています。
クロストレーニングの注意点・向かない人・限界は?
レースが近い人、記録を狙う人は、走る練習を優先します。 よく鍛えた人ほど、その動きそのものの練習でしか伸びにくい性質(特異性)の重みが大きくなります(Tanaka 1994)。本番前の仕上げを別種目で済ませないでください。
痛みがあるときは、医師に相談してください。 走れない期間に何をしてよいかは、痛みの原因によって変わります。
研究には限界があります。 上の試験は11〜32人と小さく、期間は5〜9週間です。対象の多くは若い人や鍛えた人でした。置き換える割合の上限や、6週間を超えて保てるかは分かっていません。水中ランニングの効果は、水の中で測ると大きく出やすいとも指摘されています(Reilly ほか 2003)。表は目安として使ってください。
よくある質問
Q1: クロストレーニングは週何回やればいいですか?
A: 研究で決まった回数はありません。本サイトは、楽なランのうち1回を置き換えるところから始める形を勧めます。速く走る練習はランで残してください。
Q2: クロストレーニングだけでレースに出られますか?
A: 心肺の力は保てても、走る負荷への脚の慣れは別種目では得にくいです。レース前には走る練習を戻してください。
Q3: 走れない期間、どれくらい体力を保てますか?
A: 鍛えたランナーが水中ランニングや自転車で練習した試験では、6週間は2マイル走のタイムを保てました。練習を大きく減らすと、よく鍛えた人では4週間未満でも最大酸素摂取量が速く下がるとまとめた総説があります(Mujika・Padilla 2000)。
Q4: 心拍数はランと同じ値に合わせていいですか?
A: 種目によって心拍数が変わるため、そのままでは合いません。会話ができるかと、0〜10のきつさで合わせてください。
Q5: ハイブリッドトレーニングとの違いは何ですか?
A: クロストレーニングは、走ることを主に、別の有酸素運動で補う考え方です。ハイブリッドトレーニングは筋力と持久力の両方を目標にします。詳しくはハイブリッドトレーニングとはで扱っています。
まとめ
クロストレーニングとは、ランナーが走る以外の有酸素運動で持久力を補う練習方法です。心肺の力は伸びるか保てますが、効果は走る練習を超えません。置き換えるのは楽なランからにし、時間と主観的なきつさをそろえます。練習全体の組み立てはハイロックスのトレーニング完全ガイド、マシン種目の動きはSkiErg攻略とRowing攻略で確認できます。
※本サイトはハイロックス(HYROX)の非公式のファンサイトです。HYROXおよび関連する名称・ロゴは HYROX World GmbH の商標であり、本サイトは同社およびその関連会社とは一切関係がありません。大会日程・ルール・料金は変更される場合があります。最新かつ正確な情報は公式サイトをご確認ください。
※本記事は医療・健康上の助言ではありません。持病のある方、体調に不安のある方は医師に相談のうえ運動してください。記載の回数・強度は一般的な目安で、個人の状態に応じた処方ではありません。
※本記事は次の資料に基づきます。置き換え方の表は、これらをもとに本サイトがまとめた例です。
- クロストレーニングの定義・効果の移り方・特異性・水泳: Tanaka(1994)
- ランと自転車を交互にした試験: Mutton ほか(1993)
- 階段マシンとランの比較: Loy ほか(1993)
- 練習量をランまたは水泳で足した試験: Foster ほか(1995)
- 水中ランニング・自転車で6週間保つ試験: Eyestone ほか(1993) / Wilber ほか(1996)
- 水中ランニングの心拍数・背骨への負担・6週間の維持: Reilly ほか(2003)
- 自転車とランの最大酸素摂取量・心拍数の違い: Millet ほか(2009)
- エリプティカルの心拍数ときつさ: Green ほか(2004)
- 練習を減らしたときの変化: Mujika・Padilla(2000)
- 初心者のけがの頻度: Videbæk ほか(2015)
- 腱の適応: Bohm ほか(2015)
- 練習の強さの配分: Seiler(2010)
- 会話とおよそのきつさ(0〜10): CDC: Measuring Physical Activity Intensity
- ボルグスケールの言葉: 健康長寿ネット「運動強度」
- ハイロックスの競技形式・種目: HYROX SINGLE RULEBOOK 26/27
- 種目別の選手間の差: HyroxDataLab による公開リザルトの第三者集計(HYROX公式が発表した数値ではありません)
