最終更新: 2026年10月20日
有酸素運動と無酸素運動の違いは、筋肉を動かすエネルギーを作るときに酸素を使うかどうかです。ウォーキングや水泳のように長く続ける運動を有酸素運動、短距離走や筋トレのように短時間に強い力を出す運動を無酸素運動と呼びます。ただし実際には、ほとんどの運動で両方の仕組みが同時に働いています。
この記事の要点
- 無酸素運動は、息を止める運動ではありません。エネルギーを作る過程で酸素を使わない仕組みの割合が大きい運動のことです
- 割合は運動の強さと時間で連続的に変わります。全力の運動では、約79秒で両方の割合が同じになるという研究があります
- 境目の目安は「楽に話せるかどうか」です。健康づくりでは、有酸素の運動と筋トレを週の中で組み合わせるのが公的な指針の形です
有酸素運動と無酸素運動は何が違うのですか?
筋肉を縮める直接のエネルギー源は、ATP(アデノシン三リン酸)という物質です。筋肉にたくわえられたATPはすぐに尽きるため、体は糖や脂肪を分解してATPを作り続けます。このとき酸素を使って作るのが有酸素、酸素を使わずに作るのが無酸素です。
長寿科学振興財団の健康長寿ネットの説明を表にまとめると、次のようになります。
| 比べる点 | 有酸素運動 | 無酸素運動 |
|---|---|---|
| エネルギーの作り方 | 糖や脂肪を酸素とともに分解する | 酸素を使わずに糖を分解する(乳酸ができる) |
| 強さ | 軽い〜中くらい | 強い |
| 続けられる時間 | 長い | 高い強度では1〜3分程度 |
| 代表的な運動 | ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳 | 短距離走、投てき、重量挙げ、筋トレ |
| 期待できる効果 | 体脂肪の燃焼、心肺の働きの向上 | 速筋の筋量・筋力の向上 |
どちらか一方だけが働くわけではないのですか?
エネルギーを作る仕組みは3つあります。筋肉にたくわえたATPとクレアチンリン酸を使う仕組み、酸素を使わずに糖を分解する仕組み、酸素を使って糖と脂肪を分解する仕組みです。
運動生理学の総説(Gastin 2001)は、これらが順番に切り替わるという見方を「よくある誤解」としています。酸素を使わない仕組みは速くATPを作れますが、量に限りがあります。酸素を使う仕組みは量が大きい反面、立ち上がりがやや遅い仕組みです。ほぼすべての運動で、3つの仕組みが同時に働いています。
102件の研究をまとめた2026年の系統的レビューでは、全力の運動の場合、酸素を使わない仕組みと使う仕組みの割合が同じになる長さは78.6秒でした。それより長い運動ほど、有酸素の割合が大きくなります。
つまり「ジョギングは有酸素、筋トレは無酸素」という分け方は、どちらの割合が大きいかを表したものです。同じランニングでも、強さが上がれば無酸素の割合が増えます。
有酸素と無酸素の境目はどこですか?
強さを少しずつ上げていくと、筋肉への酸素の供給が足りている状態から、足りなくなる状態へ移る点があります。これを無酸素性作業閾値(AT)と呼びます。酸素が足りているという意味での、有酸素運動の上限の強さです。この点では、換気量(呼吸で出入りする空気の量)が急に増えます。
血液中の乳酸の濃度で見たものが乳酸性作業閾値(LT)です。強さを上げると、乳酸の濃度がある点から急に上がり始めます。健康長寿ネットは、ATを最大運動の50〜60%程度の強さとしています(心拍数の%とは別の目安です)。LTは、全身持久力が高い人ほど高い強さで現れます。
ふだんは測定できないため、会話で確かめる方法が使えます。健康な16人の研究では、決まった文章を楽に読み上げられなくなり始めた強さが、換気で決めた閾値とほぼ同じでした。楽に話せるうちは、境目より下と考えて構いません。走るときの強さの決め方はジョギングのペースの目安で扱っています。
期待できる効果はどう違いますか?
有酸素運動は、体脂肪の燃焼と心肺の働きの向上が主な目的です。運動中に脂肪が最も多く使われる強さは、一般の人で最大酸素摂取量の47〜52%付近という報告があります。
無酸素運動では、速筋が主に使われます。速筋は年齢とともに縮みやすい筋線維ですが、無酸素運動で年齢に関係なく筋量・筋力を高められると健康長寿ネットは説明しています。
効果の違いは、強さを変えた実験にも表れています。タバタ式の原著では、中強度で1日60分こぐ6週間で最大酸素摂取量は上がりましたが、無酸素性の能力は変わりませんでした。全力に近い20秒運動の繰り返しでは、両方が上がりました。詳しくはHIITとは?で扱っています。
自分はどちらをどう組み合わせればいいですか?
厚生労働省やWHOの指針は、有酸素の運動と筋トレの両方を勧めています。週に何分やればよいかは有酸素運動は何分やればいい?にまとめています。
ただし健康長寿ネットは、両方をしなければいけないということはないとしています。合う運動を選び、習慣にすることが先です。目的別に、本サイトの考え方を並べます。
| 目的 | 始め方 |
|---|---|
| 運動を始めたい | 早歩きなど話せる強さの有酸素から。慣れたら自重の筋トレを週2日足す |
| 体脂肪を減らしたい | 有酸素で週の合計時間を確保し、筋トレも続ける |
| 体力・持久力をつけたい | 話せる強さの運動を土台にし、きつい強さの日を少し入れる |
両立する週の組み方はハイブリッドトレーニングとはで扱っています。
ハイロックスではどこで効きますか?
ハイロックス(HYROX)は、1kmのランと種目1つを交互に8回繰り返すフィットネスレースです。11人の愛好家が模擬レース(オープン部門のシングル)を行った研究では、完走時間の中央値は86.5分でした。ランが51.2分を占め、8種目は32.8分でした。
心拍数は、レース時間の79.5%が最大心拍数の90〜100%、19.6%が70〜90%の範囲にありました。血液中の乳酸の最大値は、ラン(7.7mmol/L)より種目(8.5mmol/L)で高くなりました。最も高い値が出たのは最後のウォールボールです。
スレッドプッシュとスレッドプルの所要時間の中央値は、128秒と155秒でした。研究者は、重いそりの場面では酸素を使わずに糖を分解する仕組みが主な担い手の一つとみています。そのうえで、レース全体では両方の仕組みが必要だとしています。
この11人の研究では、完走が速い人ほど、最大酸素摂取量が高く、持久系の練習量が多い傾向でした。人数が少ない相関の結果ですが、まず有酸素の土台を作り、そのうえで種目の強さに慣れる順番が合うと本サイトは考えます。ランの組み立てはハイロックスのラン強化とペース配分戦略、練習全体はハイロックスのトレーニング完全ガイドを参考にしてください。
有酸素・無酸素運動の注意点・向かない人・限界は?
高齢の人・高血圧の人。 強い無酸素運動のあとは、心拍数や血圧が急に上がります。健康長寿ネットは、いきなり高強度から始めず、低強度から徐々に上げるよう勧めています。筋トレでは息をこらえないでください。
持病がある人・体調に異変を感じた人。 心臓病や高血圧などがある人は、始める前に医師に相談してください。胸の痛み、動悸、めまい、冷や汗が出たら直ちに中止します。
数値の限界。 ATやLTの位置は人によって違い、正確には測定が必要です。約79秒という数字は全力の運動を集めた結果で、ペースを抑えた運動には当てはまりません。ハイロックスの研究は11人の模擬レースで、本番の大会とは条件が異なります。
よくある質問
Q1: 筋トレは無酸素運動ですか?
A: 代表的な無酸素運動です。ただし休憩を短くして種目を続けるサーキット形式では、最大酸素摂取量が伸びたというメタ分析もあります。詳しくはサーキットトレーニングとは?をご覧ください。
Q2: ダイエットにはどちらが向いていますか?
A: どちらでも期待できます。中〜高強度の無酸素運動を週3日以上続けても、体脂肪の燃焼が期待できると健康長寿ネットは説明しています。体重の変化は、週の運動量と食事にも大きく左右されます。
Q3: 乳酸は老廃物ですか?
A: 乳酸は、たまり続ける老廃物ではありません。血液に出て別の筋肉へ運ばれ、エネルギー源として使われます。運動の翌日以降の痛みについては筋肉痛の回復は何日?で扱っています。
Q4: HIITは有酸素運動と無酸素運動のどちらですか?
A: どちらか一方には分けられません。全力に近い短い運動と休憩を繰り返すため、両方の仕組みを強く使います。詳しくはHIITとは?をご覧ください。
Q5: 心拍数で境目を決められますか?
A: 最大心拍数は「208−0.7×年齢」で推定できますが、境目の心拍数は人によって違います。心拍数は補助にとどめ、会話ができるかどうかで確かめる方法が手軽です。
まとめ
有酸素運動と無酸素運動の違いは、エネルギーを作るときに酸素を使うかどうかです。実際には両方が同時に働き、強さと時間で割合が変わります。全力の運動では約79秒で両方の割合が並びます。
境目の目安は「楽に話せるかどうか」です。健康づくりでは、話せる強さの有酸素の運動を土台に、筋トレを週2〜3日加えるのが指針の形です。ハイロックスはランが半分以上を占める競技なので、本サイトは有酸素の土台から作る順番を勧めます。練習の全体像はハイロックスのトレーニング完全ガイドで確認できます。
※本サイトはハイロックス(HYROX)の非公式のファンサイトです。HYROXおよび関連する名称・ロゴは HYROX World GmbH の商標であり、本サイトは同社およびその関連会社とは一切関係がありません。大会日程・ルール・料金は変更される場合があります。最新かつ正確な情報は公式サイトをご確認ください。
※本記事は医療・健康上の助言ではありません。持病のある方、体調に不安のある方は医師に相談のうえ運動してください。記載の強さ・時間・頻度は一般的な目安で、個人の状態に応じた処方ではありません。
※本記事は次の資料に基づきます。目的別の始め方は、これらをもとに本サイトがまとめたものです。
- 有酸素運動・無酸素運動の定義と効果、代表的な運動、無酸素運動の続く時間、運動後の心拍数・血圧: 健康長寿ネット「トレーニング:有酸素運動とは」、「トレーニング:無酸素運動とは」
- 無酸素性作業閾値・乳酸性作業閾値、乳酸の行き先: 健康長寿ネット「無酸素性閾値・嫌気性代謝閾値」、「乳酸性閾値」
- エネルギーの仕組みが同時に働くこと: Gastin(2001)Energy system interaction and relative contribution during maximal exercise
- 割合が並ぶ長さ(78.6秒): Gastin・Suppiah(2026)Anaerobic and Aerobic Energy System Contribution During Maximal Exercise: A Systematic Review
- 会話と換気の閾値: Persinger ほか(2004)
- 脂肪の使われ方と強さ: Achten・Jeukendrup(2004)
- タバタ式の原著: Tabata ほか(1996)
- サーキットトレーニングのメタ分析: Ramos-Campo ほか(2021)
- 成人の推奨、運動を中止するサイン: 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
- 筋トレで息をこらえない: 厚生労働省「筋力トレーニングについて」
- WHOの推奨: Bull ほか(2020)WHO 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour
- 最大心拍数の推定式: Tanaka ほか(2001)01054-8)
- ハイロックスの模擬レースの測定: Brandt ほか(2025)Acute physiological responses and performance determinants in Hyrox
- ハイロックスの競技形式: HYROX SINGLE RULEBOOK 26/27
